Paranoia Diary

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警察・海保 VS 異世界ファンタジー軍団 -ネット小説評-

 ミリタリー×ファンタジーというジャンルがある。剣と魔法と冒険の異世界に現代戦力が殴りこみにいくというものだ。「戦国自衛隊」や「アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー」を始祖とする系統の作品だが、近年では「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」が有名である。
 これはある意味革新的な作品であり、ヒットを飛ばしたおかげで「小説家になろう」を筆頭とする多数の小説投稿サイトに数百匹目のどじょうを狙ったような類似作品がアップされている。今回ピックアップするのはその中でも一番好きな奴だ。

  2ちゃんねるの創作発表板「自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた」スレに投稿された作品であり、著者は「石動 ◆a11CQqukNsdH」氏。現在も不定期で連載されている。シリーズ作品にタイトルは付けられていないが、現在外伝が小説家になろうでも連載されている。現在はこちらで全て見る事が出来る。

www26.atwiki.jp

 「ゲート」の冒頭が異世界から侵略してきた軍勢が銀座を襲撃するシーンで始まる事は覚えているだろうか?原作でもアニメでも漫画でも銀座事件に関するシーンはかなり雑というか速攻で終わった。終始無双気味だった自衛隊もとい日本の活躍が目白押しの「ゲート」において、数少ない日本側が劣勢に回るシーンではあったが自衛隊の登場でアッサリと片付けられている。
 で、今作シリーズの第一部の部分に当たるエピソードでは、全十二話に渡って異世界の軍勢と現代日本という、日本人のホームで戦うという部分にスポットが当てられている。著者の石動氏曰く「ゲートの銀座や皇居の攻防戦が書いてみたくて」という思惑があり、それが色濃く反映されている。それがこの手のミリタリー×ファンタジーものにおいて独創的な作品に仕上がったのは驚くべき事だろう。
 舞台は近畿地方。突如として異世界との門が開き、京都府綾部市は異世界の軍勢に占領される。太平洋戦争後以来最大の危機に立ち向かうのは、警察と自衛隊の一部部隊のみ。双方にとって想定外の事態が繰り広げられていく――
 この手の作品では軽く見られている組織にスポットが当てられ、異世界の軍勢という災厄に見舞われる日本国民を描くパニック描写、徹底したミリタリー描写と異世界軍勢と日本側の白熱する攻防戦が見られる名作である。海上自衛隊の陸戦部隊、京都府警の機動隊、海上保安庁と言った限られた戦力が陸上自衛隊の主力部隊到達までに民間人を守るために奮闘するという内容だ。
 政治的な制約や主力部隊出動までのタイムリミット、限られた戦力・武装と弾薬という日本側と、軍勢だけは豊富で様々な手ごまを用意するが近代兵器にはほぼ無力な異世界の軍勢、その双方のパワーバランスが緊迫した戦場描写を以って繰り広げられ、まさに手に汗握る展開が続く。
 パニック描写も秀逸であり、我々が住んでいる何の変哲もない日常がいきなりぶち壊され、破壊されていく圧巻の描写、そして残酷な一面も描いている。冒頭では警察の抵抗空しくなすすべもなく虐殺されていく市民や、圧倒的な力を前に押し潰される警察・治安維持組織がありありと描写されている。
 戦闘描写もユニークだ。催涙ガス弾、水圧銃、ネットガンと言った暴徒鎮圧武装でオーク集団に対抗する機動隊と言った他作品には見られないバトル描写もあり文字通りの攻防戦が全編続いていく。
 また、ゲートと同じく自衛隊が異世界へと向かう部分も他には見られないオリジナル部分が垣間見れる。舞台は南国であるし、海上からの移動となるために自衛隊ミサイル艇が投入される。海沿いの交易都市を部隊に、異世界の争いに巻き込まれた自衛隊が決断を迫られ、否応なしに戦いへ巻き込まれていくという筋書きであるが、決して能天気に現代兵器で爽快感たっぷりに押しつぶす事はなく、異世界の戦術・テクノロジーを前に苦戦を強いられる自衛隊や、政治的な問題で行動に制限をかけられるジレンマというものがストレートかつ緻密に描かれている。

 異世界ファンタジー×ミリタリーの後発作品、それもネット発祥であるがここまで面白さを突き詰めた作品は早々ないし、数多のネット小説作品でも大好きな作品である。今後が楽しみな作品であるが、果たして生きてるうちに完結を見れるのだろうか。