Paranoia Diary

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それは冒険娯楽活劇の革命児 -ゴールデンカムイ 書評-

 最近気になってる漫画があった。タイトル名は「ゴールデンカムイ」

 “このマンガが凄い”では二位に選出され、話題沸騰中の人気タイトルでありTwitterでもぼちぼちネタにしている人もいる作品だ。今ではすっかり有名タイトルで今更感が強いながら「題材が題材だし興味あるし読んでみっか……」と1巻を買って読んでみた。

 これ最高だ。

  『不死身の杉元』日露戦争での鬼神の如き武功から、そう謳われた兵士は、ある目的の為に大金を欲し、かつてゴールドラッシュに沸いた北海道へ足を踏み入れる。そこにはアイヌが隠した莫大な埋蔵金への手掛かりが!? 立ち塞がる圧倒的な大自然と凶悪な死刑囚。そして、アイヌの少女、エゾ狼との出逢い。『黄金を巡る生存競争』開幕ッ!!!!

 あらすじはこんな感じである(Amazon商品紹介から引用)。

 ジャンルはカオスなまでに煮込まれている。冒険活劇であるが、その中に大自然のサバイバルやシリアスな殺し合い、はたまたインディ・ジョーンズ的な笑いを挟んだアクションがあり、アイヌと言う異文化との交流、ギャグ、陰謀劇、歴史、グルメ……とにかく明治時代の北海道という世界にありったけの娯楽要素を詰め込んでいる。それら全部をごちゃ混ぜにして個々の味を台無しにするかもしれないというハードルを、平気で飛び越えて見せているのが今作だ。

 キャラも素晴らしく主人公である“不死身の杉元”のキャラクターは魅力たっぷりだし、それらを食わんとする勢いでサブキャラ達も個性と魅力を短い間でこれでもかとぶちまける。ヒロインも可愛いながらも時折ギャグ要員にして「お前それヒロインがしていい顔じゃねえだろ」と言わんばかりの多彩な表情で劇中を引っかき回す。

 ギャグも凄まじくノリがよく、時たま「金塊を巡る壮絶な争奪戦」というシリアスな設定を完全にぶっ飛ばすほどのギャグが用意され、時には連続していく。一方でシリアスな場面はとことんシリアスに進んでいくし、敵や野生生物との戦闘シーンは凄まじい迫力で展開され、金塊にまつわる重苦しい陰謀劇も同時に並行していく。このメリハリ、緩急の付け方がもう完璧と言って良いほどで、見ていてズンズンとのめりこんで行く。

 そして、単純な娯楽作らしからぬ史実を重んじる姿勢も見逃せない。一見すると「なんでこの時代の話なんだ……」という程地味(と言っちゃ失礼だろうか)な時代と舞台設定を盛り込んではいるが、その時代の文化・風俗・政情に対して極めて真摯に向き合っているし、アイヌ民族のヒロインとの交流によるアイヌ文化への深い言及も、それ単体として極めて高い完成度を持っている。それらに対する説明も過剰な密度と思えるほど作中内で丁寧に描写されるので、複雑かと思いきやスーッと頭に入っていくという作りも素晴らしい。

 んでもってメシの描写がやばい。圧倒的な画力とリサーチが物を言うこの手のメシ描写において十分なクオリティの今作では美味いメシ、そして不味そうなメシの両方が魅力的に描かれる。美味しそうなものからウサギの脳味噌のようなゲテモノまで、食べる人間の反応に至るまでその全てが輝きを放ち時に致死性のギャグに発展する。これもまた作品のデカい魅力のひとつだ。

 また今作は洋画娯楽作的――もっと端的に言うのなら西部劇映画の構図である。劇中の要素を西部劇に当てはめれば物凄くしっくりくるのだが、舞台を北海道からアメリカ西部、日露戦争南北戦争アイヌをネイティブアメリカンに置き換えてみればハリウッドあたりで作られていてもおかしくないような作品が出来上がる筈だろう。こうした洋画的な構成の良さに明治時代の北海道という誰もが大々的にマンガで手を出さなかった舞台設定と魅力的なキャラをぶち込んでいく試みが実に革新的であるし、目新しくもある。

 既刊5巻、これからどう続いていくのか興味深いシリーズであるし、今からでもいい、是非とも目を通して欲しいと願ってやまない近年最高の娯楽冒険活劇マンガである。

ゴールデンカムイ 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

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