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Paranoia Diary

趣味の事とかTwitterで書けなかった事とか雑感とか日記とか

知られざる、そして今読まれるべき戦車漫画 -幻の豹収録 ウクライナ混成旅団 書評-

 戦車を題材とする作品が今アツい。

 ガールズ&パンツァーのヒットにより、ミリタリー界隈は船と並んで戦車に沸いている。 戦車を題材とする作品が目だって取り上げられるようになったのは喜ばしい事でもある。漫画に限れば「シェイファー・ハウンド」「重機甲乙女 豆だけど」などがあるし、映画ではM4シャーマンとタイガーⅠのガチバトルが見れた「フューリー」や戦車版白鯨とも呼ばれた「ホワイトタイガー」もある。ゲームでは「World of Tanks」が人気である。ミリ姫のサービス停止は残念だったが……

 もちろんここに来て古い作品もスポットが当たっているし、古典作品として最高峰の小林源文の戦記漫画がよく挙げられる。「黒騎士物語」や「カンプグルッペZbv」とか、どっちも大好きだ。でもこうした場でそんなに見かけない作品で、物凄く好きで尚且つ猛烈に推したい作品がある。滝沢聖峰ウクライナ混成旅団である。今作について改めて語り、そして知らない人に勧めていきたい。こいつは面白いぞ、と。

  まず滝沢聖峰という人が何者なのか知らない人に説明すると戦記漫画家の中でもかなり有名な人である。モデラーの人ならMG誌などで作品を見た人も多いだろう。著作も数多く、そのどれもが名作である。しかしながら数多くの戦記漫画を排出しながらその多くは航空戦を題材にした作品であり、戦車モノの長編=陸モノは考える限り今作1本きりである。収録単行本「幻の豹―The panther in Ukraina 1950」には日独技術交換の裏に隠された陰謀劇を描く「JUNGLE EXPRESS」があるがそれはまた別の機会に触れておこう。

 とにもかくにも今作は戦車漫画でも異色である。ドイツ軍の花形戦車の一つパンター中戦車が主役車両であるが、舞台はウクライナ、そして戦後の1950年である、そして主人公は元戦車兵の日本兵。ちょっとミリタリーを齧った程度の人なら「?」と思う設定だが、史実背景を知る人ならピンと来る内容になっている。

 主人公は日本軍の戦車兵で、太平洋戦争末期のソ連侵攻による北方領土での戦い、占守島の戦いで捕虜になりソ連軍の捕虜として囚われている、いわばソ連抑留の日本兵だ。冒頭ではその占守島の戦いが描かれているが、日本軍の貧弱な戦車がソ連軍の物量を前に奮闘空しく押しつぶされていく様が短いながらも緻密に収められており、これだけで戦記モノの掴みとして抜群だろう。

 やがてウクライナへ送られた主人公ら日本兵捕虜は、そこでドイツ軍捕虜やウクライナの反共勢力捕虜たちと共に戦車の解体作業へと従事する。そこで捕虜たちから持ちかけられたのは収容所での武装決起。解体予定の完璧なパンターを用いて捕虜たちと共に立ち上がろうと言うのだ。だが、内部に裏切り者がいた為に武装決起は思わぬ形で始まる事になり……というのが大まかな筋書きだ。

 濃厚な人間ドラマ、捕虜たちの終わりなき収容所生活、抑圧された者たちの戦い、ソ連ウクライナ蜂起軍共産主義……様々なテーマや要素が複雑に絡み合いながら大脱走、そして大戦車戦へと発展していきながら、男たちの友情や面子を掛けた戦いというシンプルな物語の軸が出来上がってく流れ……と様々な戦記漫画でも異色とも言える作品へと仕上がっていて、見ていて胸が熱くなる事必至である。ラストのハッピーエンドともバッドエンドともつかない独特の余韻を残した終わり方も大好きだ。

 著者の緻密な画風もそれらの物語をこれでもかと言わんばかりに盛り上げているし、むせ返る様な男臭さの合間に繰り広げられる戦車戦の圧倒的な描写には息を呑むばかりだ。被弾による戦車の破壊と断末魔、殺るか殺られるかの一瞬の判断が物をいう戦車戦の駆け引き、乱戦によって引き起こされる混沌とした戦場の様子などが、濃密に描かれていて漫画でありながらも映画的に動きを予想できるような、そんなイメージのし易さも相まって見ていて心地よい。

 とまあ、人生でもベスト10に入るほどの好きな戦記漫画である。しかしその知名度は最近の押し寄せる戦車作品の波に押されがちだが、ぜひとも読まれてほしい作品である。

 

幻の豹―The panther in Ukraina 1950 (MGコミック)

幻の豹―The panther in Ukraina 1950 (MGコミック)