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Paranoia Diary

趣味の事とかTwitterで書けなかった事とか雑感とか日記とか

艦娘と戦争と青春、ミリタリーを纏った渾身のノベライズ -陽炎、抜錨します!書評-

書評 艦これ

 艦これのメディアミックス作品は多数存在している。有名なのを上げれば漫画の公式四コマ「吹雪、がんばります!」や「いつか静かな海で」「水雷戦隊クロニクル」、小説では「鶴翼の絆」あたり、そして悪名高き醜悪なTVアニメ版などだ。

 現在進行形で続いているのもあれば、連載・放送終了したものもあるし、中には打ち切りにさせられた「side:金剛」や連載すら適わなかった「ブラックオーダー(仮)」もある。

 内容も玉石混合であり、目を見張るメディアミックスもあれば、Pixivあたりに上げられてる二次創作作品の方がはるかにマシというものまで様々だが、円満に完走を果たした超面白い、クソゲー原作から生まれた名作メディアミックスを取り上げよう。

 「艦隊これくしょん 陽炎、抜錨します!」だ。

 ファミ通文庫から発売され、全7巻というミニシリーズで完結したノベライズだ。著者は『けんぷファー』の築地俊彦。あとがきでは「女王陛下のユリシーズ号」について触れており、艦これのノベライズが陽炎が主役なのも「資料があまりなかったから」という理由からだそうだ。

 まず知らない人に説明しておくと原作はこれと言った設定がない。深海棲艦って悪者がいて艦娘という女の子がそいつらと戦っている、大まかに言えばただそれだけ。物書きやゲームのシナリオライターなら「おいプロデューサー真面目に仕事する気あんのかこの世界観もクソもない設定は」と思う要素だからこそ、公式や二次創作含めて書き手が足りない部分を独自に補う設定補完がアツい作品なのだが、今作はそれらの中でもきわめてリアル寄りである。地に足が付いている、と言ってもいい。

 「艦娘は元人間であり艤装を付け艦の名前を襲名した女性である」「艤装や兵装等は人間の技術者が開発している」という設定の作り方は面白いが、更に軍隊内の上下関係というものを艦種を使って表現している。

 駆逐艦はいわば艦隊の下の下、下っ端の中の下っ端であり、戦艦や空母は花形であり駆逐艦からは高位の人であり、水雷戦隊を指揮する軽巡洋艦は教官として、そして上官として畏敬されている……という構図が1巻から最後まで続けられる。軍隊用語も飛び出すし、軍隊特有の暇をもてあました兵隊たちの生活様式も女の子流で繰り広げられる。荒唐無稽の中のリアルを全体的に用いているのが特徴でもある。

 

 水雷戦隊クロニクルや公式四コマなど駆逐艦にスポットを当てるメディアミックスは色々と存在したが、今作は本当に駆逐艦しかメインで出てくるキャラがいない。戦艦や空母は花形の存在なのであまり出てこないし、各メディアミックスで取り上げられている主要キャラクターたちは影も形も無い。金剛型四姉妹は1巻でカメオ的に出演しているだけだし、雪風島風に至っては登場すらしていない、ただその存在が艦娘の口から語られるのみだ。

 主役の第十四駆逐隊も、普段の艦これプレイヤーにとってはあまり見向きもされない艦ばかりだ。ネームシップなのに影が薄めの陽炎、口がクソ悪く割と嫌う人もいる曙、改二が来たがあまり脚光の少ない潮、大体の人は遠征要因でしか使ってないだろう皐月と長月、霞と字がややこしい霰。

 正直に言うがそのへんのMAPで拾っては解体か改修になる艦娘ばかりである。つまり各々のメディアミックスでは軽視されがちなマイナー艦娘が多く登場するのだ。この時点でもう「唯一無二の」と言わんばかりの特色を武器にした感じがあるし、事実その通りだろう。

 

 筋書きもいい。落ちこぼれのチームを主人公が纏め上げ、最強のチームへと育て上げていくという王道的な物語が深海棲艦との戦い、鎮守府での生活を通して繰り広げられていく。メディアミックスでよく見る艦ではなく、前述のマイナー艦が多いため、その艦娘を愛している提督には申し分ないうれしさがあるだろう。巻雲は最終巻までお預けだったし隼鷹も出なかったが。

 訓練や戦いを経て、悩み傷つき時には轟沈寸前まで行きながらも、落ちこぼれだった艦娘たちが陽炎に導かれながらも成長し勝利をつかんでいくという展開は熱血的であるし、下手なハーレムラノベのような押し付けがましい寄り道もない。まさに戦場の青春を描く話でもある。戦争映画のような掛け合いから、洋画のような小洒落ているが意味の無い掛け合いも随所に盛り込まれ、テンポの良さと本文へののめり込みを盛り上げてくれている。

 一方で人によっては艦これらしくないと言うであろうハードさも盛り込まれており、話を盛り上げていく。キャラクターも元に比べて改変されているのも多い。ゆるふわな感じもたまに見受けられるが、血の気の多い駆逐艦娘は駆逐艦同士で殴り合い心を通わせる(肉体言語ともファンの間で言われる)し、戦場に身を置いているからこそ飛び出るシビアな言葉や感情もストレートに描かれる。好きなのは5巻の阿武隈が、十四駆逐隊の生存が絶望視されてきた状況に喋る台詞、

「さあ。でも、天国は知らないけど、地獄はあると思うよ。ないと困る」

 阿武隈は言った。

「あたしたちはそこに行くんだ。」

 これだけで何となく作品に漂うシビアな一面を全て体言している。そこがたまらなく好きである。熱血ものだし女の子たちが沢山出てくる話であるが、その根源は戦争の話なのだ。

 

 連載は終了してしまったが、グタグダと長続きしてダメになるよりかは良かったし、とっつき易い長さとボリュームなのも素晴らしい。それに原作ゲームが現在転換期を超えて下り坂を猛スピードで突っ走っている状態の昨今、有終の美を飾れた「陽炎、抜錨します!」は現時点で最高の部類に入る艦これメディアミックスとも言えるかもしれない。

 第十四駆逐隊と共に艦これの世界を右往左往していく没入感、艦これらしからぬハードな面、それでいて戦争映画と青春映画が融合したかのような雰囲気。艦これという素材を料理して出来上がった老舗ラーメン屋の中華そば的な(喩えがわかりづらい)名作である。艦これユーザーでまだ見ていないという人は必見だろう。